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[2175] 竹生島等の音韻考

投稿者: sitaru 投稿日:2021年 6月12日(土)17時13分21秒   通報   返信・引用   編集済

 長崎のsitaruです。
 『琵琶湖周航の歌』の歌詞の中で、一つだけ言葉の問題として触れるとすれば、四番の歌詞の中にある「竹生島」という島名の読みが挙げられます。最初にヒットした加藤登紀子も、そのほかのカヴァー歌手も、ほとんどすべてが「チクブジマ」と歌っているようですが、本来は「チクブシマ」と「シマ」が濁らない発音のようです。ネット動画で調べた限りでは、京都大学男声合唱団が「チクブシマ」と歌っている他は、一つも見つけることができませんでした。京都大学は旧制第三高等学校の後身ですから、そこに本来の歌い方が伝わっているとも考えられます。この島は、信仰の対象として古くから有名だったようで、いろいろな文献に記されているようですが、漢字表記は言うまでもなく、仮名で表記されていても、古くは濁点表記が未発達で、「ちくふしま」と書いてあっても「チクブジマ」と読んだ可能性は否定できません。参考になるのは、古い発音を伝承している芸能で、能に「竹生島」があり、狂言にも「竹生島詣(まいり)」という曲があって、いずれも「チクブシマ」と濁らない発音で伝わっています。ネット百科事典でも「チクブシマ」となっているので、地元では今も普通にそう発音されているのかも知れません。
 この「チクブシマ」か「チクブジマ」かという問題は、ことばの研究では「連濁」の問題として重要視されています。「連濁」とは、二つの単語が複合する際に、後ろの語の頭の部分が、本来濁らない音(清音)であったものが濁音に変化することを言います。この例は無数にあると言ってよく、これまでの研究で、大体のことは分かっています。その最たるものが、連濁しない場合の法則的な現象で、「ライマンの法則」と呼ばれるものです。ライマンとは人名で、19世紀のアメリカの東洋学者ライマンが発見したものとして有名です。それは「後ろの語の一部に、もともと濁音が含まれている場合は、ほとんど連濁が起こらず、特に後ろの語が二音節の場合は、少なくとも共通語では絶対に連濁を起こさない」というものです。例えば、「~風」「~首」「~旅」「~束」などの「~」の部分にどんな言葉が来ても連濁は起こりません。ただ、方言には例外があるようで、例えば福岡県の筑豊地方では「大筆」「小筆」を「オオブデ」「コブデ」と言う人がいると聞いたことがあります。後ろの語が三音節以上の場合は、「縄梯子(ナワバシゴ)のような例外がわずかに見られます。
 「~島」の場合の連濁・非連濁の様相は非常に面白く、例えば「島」の付く地名で考えると、屋久島(鹿児島県)、湯島(熊本県)、女島(めしま、長崎県)、見島(山口県)、小豆島(香川県)、淡路島(兵庫県)、伊豆大島(東京都)などは非連濁で、宮古島・石垣島(沖縄県)、桜島(鹿児島県)、福江島・平戸島(長崎県)、巌流島(山口県)、宮島(広島県)、輪島(石川県)、八丈島・三宅島(東京都)などは連濁します。どういう場合に連濁が起こりやすく、どういう場合に連濁が起こりにくいかというと、ある程度の傾向性は見られますが、はっきりとした法則性を見出すことはできません。実は、この「~島」の場合は、万葉の時代から連濁が起こりにくかったことが知られています。それが、時代が下るとともに、次第に連濁する語が増えて来たようです。私の地元の長崎にある有名な史跡である「出島」も、江戸時代は「デシマ」と非連濁に発音していたらしいという研究もあります。もう一つ、「~島」の発音の特徴で、「中島」「田島」「小島」などの地名や人名に用いられる語には、連濁・非連濁双方の発音が許されていることです。このような語は、他にはあまり見られません。
 一方、連濁を非常に起こしにくい語もいくつか見られます。「~浜」「~姫」「~紐」などの場合は、ほとんど連濁を起こしません。その理由は、未だ解明されていません。
 この「連濁」の問題は、ネット上でも盛んに論じられていますので、興味のある方は覗いて見て下さい。また、この現象は、事実としての用例・サンプルを集めることは非常に容易で、中学生でも出来ます。例えば、「~川(河)」の場合は、日本地図・世界地図を開けば、簡単に多数の用例を拾うことができます。それを整理して、どういう傾向があるかを考えることは、頭脳の知的訓練にも役立つでしょう。
<文中敬称略>


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